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音楽にかまけて その9 〜〜お酒とコーヒーと音楽の店 楽屋 青山将之



休憩室×音楽屋×くつろぐ場所。そんな意味を込めて名付けられた楽屋さんは、音楽を聴きながら気軽に飲めるお店です。
レコード・CDの数は、村上で一番!オーナーが集めたジャズをメインに、ブルースやボサノバなどが揃います。また、軽食には注文を受けてから作るというポップコーンや、お酒の〆に大人気のお茶漬けパスタなど、こだわりのメニューがありますよ。
『明朗会計の気軽な音楽酒場』、楽屋で日常空間を少し離れ、音楽に浸ってみませんか?

 

 

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 <寺井 尚子>


このところ寺井尚子の「アンセム」をよく聴いている。
久しぶりにたまたま聴いてみたら、なぜかまたくり返し聴きたくなるというのは、音楽好きにはよくあることだと思う。
このアルバムが出された2003年に彼女のライブを観る機会があり、このアルバムの曲々を生演奏で聴き、感動したものだった。
ジャズ界ではまだマイナーな楽器と言えるバイオリンを、寺井尚子はそれは楽しそうに演奏する。全身を激しく揺らし、笑顔と真剣な表情をおり交ぜながらアドリブをくり出す。観ているこちらまで楽しくなる。
これが生演奏の醍醐味だろうと、彼女のライブを観てつくづく思った。
音楽を聴くならライブが一番という言い方があるが、寺井尚子はまさにそう思わせるミュージシャン。
CDをくり返し聴きながら、寺井尚子のライブに出かけたいと改めて思う。

 

 

 

 <ジーン・リー>


スピーカーの音を試聴すべく、楽屋でよく聴いているCDを10枚ほど持参して、三条のオーディオメーカーを訪れた。
聴かせていただいたのは、ジャズを聴くために作られたというバックロードタイプのスピーカー、その名も「ジャズ・オーディオ・ファンズ・オンリー」。
一聴してまず、その音のリアルさに驚いた。
それぞれの楽器の音がより鮮明になり、今まで聞こえなかった音が聞こえてくる。嬉々としてCDをとっかえひっかえ聴いて行き、ジーン・リーの「アフター・アワーズ」を聴いて、このスピーカーの導入を決めた。
マル・ウォルドロンのピアノとのデュオ盤で、ジーン・リーのボーカルがどうなるのかを聴いてみたかったが、これほど生々しい歌声になるとは思いもしなかった。
ジーン・リーの口の開く音が、はっきり聞こえてきた。

 

 

 

 <リー・コニッツ>


以前、暑い日に暑苦しいジャズを聴くのが好きだと書いたことがあるが、涼しげなジャズもやはり夏にはいい。
リー・コニッツの吹くアルト・サックスの音色は、とても清涼感がある。
中でもわたしが好きなのは、シンプルなトリオ編成で録られた「モーション」。コニッツのサックスは力みがなく押しつけがましくないので、さらりと聴くことができるが、この「モーション」はとくに冷やかだ。
ジャズの定番曲が、流れるようなアドリブによって原形のほとんどを破壊されている。ソニー・ダラスのベースとエルビン・ジョーンズのドラムとのかね合いも良く、まさに三位一体の快演。ピアノが入っていたら台無しになっていたのではないかとすら思う。
ちなみにコニッツには「ベリー・クール」というリーダー・アルバムもあるが、こちらはタイトルほどクールではないと思っている。

 

 

 

 <セロニアス・モンク>


妻が友人に送ってもらったCDがとても良くて、楽屋でも仕入れた。
セロニアス・モンクの「ライブ・アット・ジ・イット・クラブ」(1964年)。わたしも好きなピアニストのモンクだが、この盤は知らなかった。チャーリー・ラウズの渋く枯れたテナーサックスが、モンクの調子外れのようなピアノに合う。
モンクが弾くピアノの音色は実に独特で、弾きまちがいかと思うような素っ頓狂な音が随所に出てくる。それでいて、作曲家としても多くの名曲を残したメロディーメーカーでもある。
代表曲「ラウンド・ミッドナイト」は、無数のミュージシャンに演奏されているジャズの定番曲だ。
このイット・クラブでのライブ盤は、選曲といい演奏といい、モンクならではのジャズを存分に堪能できる傑作だと思う。
会ったことのない妻の友に感謝。

 

 

 

 <三上 寛(かん)>


津軽が生んだ稀代のフォーク歌手、三上寛が初めて楽屋で歌う。
長年のファンとして、これほどうれしいことはない。
学生時代、偶然寛さんに会ったことがある。京都拾得でのライブのあと、わたしのいたろくでなしに飲みに来たのだった。
となりに座った寛さんにライブへ行かなかったことをわびると、「おまえ、俺をなめたな」。その意外なひと言にとまどったのをよく覚えている。
その日はたしか、寛さんの42歳の誕生日だった。
気さくな寛さんは、生ギターで「俺が居る」を弾き語ってくれた。わたしが初めて買った彼のCDのタイトル曲だった。
1971年「三上寛の世界」でデビューして以来、演歌ならぬ怨歌を弾き語り続ける。
山下洋輔や坂田明の参加を得た「BANG!」(1974年)は、怨歌とフリージャズが見事に融合した傑作。
村上ではどんな怨歌を聴かせてくれるだろうか。

 

 

 

遠藤賢司>


「エンケン」こと、フォーク歌手の遠藤賢司が亡くなった。
わたしはそれほど熱心な彼のファンではなかったが、デビュー作「niyago」(1970年)と2作目「満足できるかな」(1971年)は気に入っている。
2作目に収録された彼の代表曲とも言うべき「カレーライス」を初めて聴いたとき、え?と耳を疑ったものだった。ほのぼのとしたラブ・ソングかと思いきや、三島由紀夫の切腹がさらりと出てくる。そして、カレーライスの辛さの好みを歌う。
何という強烈な歌だろう。
同年代の泉谷しげるが追悼文を書いていた。その中で彼は、「ライブ泉谷/王様たちの夜」(1975年)のジャケットのデザインをエンケンにお願いしたことにふれている。
そのジャケットを見たとき、わたしは初めてエンケンというアーチストを意識した。
目にまぶしいような色使いのそのジャケットは、どこかダサくて、かっこいい。

 

 

 

 <ボビー・ティモンズ>


1960年代、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの演奏する「モーニン」が日本で大ヒットした。
その人気ぶりは、そば屋が出前を運びながら口ずさんだほどだったという。ジャズに興味を持つと、この逸話がすぐにどこからか聞こえてくるからおもしろい。
1958年にブレイキー名義のアルバム「モーニン」のタイトル曲として初録音され、ブレイキーの代名詞的な曲となっている「モーニン」だが、曲はジャズ・メッセンジャーズのピアニストだったボビー・ティモンズが書いた。ティモンズは1960年、初のリーダー作「ディス・ヒア・イズ・ボビー・ティモンズ」でも「モーニン」を録音している。
この盤がまたいい。
ピアノ・ベース・ドラムスから成るトリオによる快適盤で、「モーニン」のみならず、「ディス・ヒア」や「ダット・デア」など、ティモンズ作の乗りの良い曲々が楽しめる。

 

 

 

 <ベッシー・スミス>


1972年に出された『ブルー・スピリット・ブルース』は、浅川マキの数ある作品の中でもとくに人気が高い。
浅川マキはこの盤で、「ブルー・スピリット・ブルース」「難破ブルース」「ハスリン・ダン」と、ベッシー・スミスの持ち歌を自身の訳詞で3曲カバーしている。浅川マキの、ベッシー・スミスに対する敬愛が感じられる。
ベッシー・スミスは、ジャズという音楽が世に出はじめたころ、1920年代から30年代にかけて活躍した米国のブルース歌手である。その大柄な体格と威風堂々たる歌いっぷりから、「ブルースの女帝」と呼ばれたと言う。
浅川マキのみならず、時代を超えて多くのミュージシャンに影響を与えてきた。
モノラル録音の古い音で再生される彼女の歌声を、夜中に抑えめのボリュームで聴くのが好きだ。
洋酒が少しあると、なおいい。

 

 

 

 <スライド・ハンプトン>


こうも寒いとひまな夜が多い。
誰もいない楽屋では、たいてい鳴らす音が通常より大きい。とくにビュービューと吹雪いている夜などは、荒くれたジャズを大きな音で聴くと気持ちがいくらか晴れる。
チャールス・ミンガス。ジョン・コルトレーン。阿部薫。
吹雪に対抗できる激烈なジャズはいろいろあるが、米国のトロンボーン奏者、スライド・ハンプトンのリーダー作「ザ・ファビュラス・スライド・ハンプトン・カルテット」も、相当な凶暴盤のひとつだ。
トロンボーン、ピアノ、ベース、ドラムスの4人が、乱闘しているかのような激しいアドリブ合戦をくりひろげる。
ドイツの若きピアニスト、ヨアヒム・キューンがすごい。大先輩ハンプトンのトロンボーンに、独特の音色で食ってかかる。
4人の真剣さがビシバシ伝わってくるため、BGMとして聞くにはふさわしくない。
外が吹雪だということも忘れられる。

 

 

 

 <ローゼンバーグ・トリオ>


2017年に公開されたフランス映画、「永遠のジャンゴ」を観た。
ジャズギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトが第二次大戦中のフランスでナチスに苦しめられた姿を痛々しく描く。
ジャンゴがギターを弾くシーンがあるが、ジャンゴに扮する俳優レダ・カテブはギタリストではないため、実際の音楽はローゼンバーグ・トリオが演奏したという。
たまたま彼らのCDを1枚だけ持っていたわたしは少しうれしかった。
ストーケロ・ローゼンバーグを中心に活動するローゼンバーグ・トリオは、ジャンゴが開拓したマヌーシュ・ジャズの世界で人気のオランダのバンドである。
久しぶりに棚から引っぱり出して、このところよく楽屋で聴いている。独特の軽快なリズムを聴いていると気分も軽くなる。
今回映画を観て、メジャーな存在とは言いがたいマヌーシュ・ジャズという音楽を、もっと知りたいと改めて思った。

 

INFO

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ジャズ好きにはたまらない、楽屋 青山さんのコラム。楽器が奏でる音から伝わってくる、熱い情熱。音楽に人生を賭けた人たちの深い思いが伝わってきます。

 

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