音楽にかまけて その5 〜〜お酒とコーヒーと音楽の店 楽屋 青山将之
休憩室×音楽屋×くつろぐ場所。そんな意味を込めて名付けられた楽屋さんは、音楽を聴きながら気軽に飲めるお店です。
レコード・CDの数は、村上で一番!オーナーが集めたジャズをメインに、ブルースやボサノバなどが揃います。また、軽食には注文を受けてから作るというポップコーンや、お酒の〆に大人気のお茶漬けパスタなど、こだわりのメニューがありますよ。
『明朗会計の気軽な音楽酒場』、楽屋で日常空間を少し離れ、音楽に浸ってみませんか?
PICK UP!
1. <町田町蔵>
2. <エリック・ドルフィー>
3. <高田漣>
4. <クレイジーケンバンド>
5. <早坂紗知>
6. <与世山澄子>
7. <加川良>
8. <エルビン・ジョーンズ>
9. <ガトー・バルビエリ>
10. <ジグソー>
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<町田町蔵>
芥川賞を受けたお笑い芸人、又吉直樹がおもしろい例え話をしていた。
いわく、漫才とコントはサッカーとラグビーくらいのちがい。小説を書くこともそれに似ていて、アメフトくらいのちがいだと。
ミュージシャンにとっての作詞も、もしかしたら同じように言えるかもしれない。
80年代から活躍するロックミュージシャン、町田町蔵の魅力は、何といってもその奇抜な歌詞にある。
「お前はライトサイダー、遅れた顔面。ひと口飲めばスカッと地獄」。18歳ですでにこのような詞を書いていた町田町蔵は、いつしか小説家としてもデビューし、2000年には本名の町田康で芥川賞を獲る。
音楽でも小説でも、彼の表現する世界は強烈なパンクであり、ロックである。音楽では「メシ喰うな」「腹ふり」、小説では「くっすん大黒」「告白」などがお薦め。
<エリック・ドルフィー>
「速いジャズを」と請われて、エリック・ドルフィーの「アウト・ゼア」をかけると、お客さんは喜んでくれた。ドルフィーは楽屋でも日常的にかけるアーチストのひとりだが、この盤の流れるようなアルトサックスがとくにわたしの気に入りだ。
ドルフィーを聴くなら、最高傑作とうたわれる「アット・ザ・ファイブ・スポット」もはずせない。ブッカー・リトルのトランペットとの双頭五重奏による鬼気迫る演奏は、ジャズ史に残る名演と言っていいと思う。
ドルフィーの音楽は、およそBGMにはふさわしくない。聞き流すにはとげが鋭すぎる。
団体さんの来店で突如としてにぎやかになった夜、それまでひとり静かに本を読んでいたジャズ好きのお客さんがぼそっと「ドルフィーでも大音量でかければいいのに」とつぶやいたのをよく覚えている。
<高田漣>
高田漣がゲスト出演したラジオの番組を聴いた。
話題はやはり、父であるフォークシンガー高田渡のことが多くなるものの、父に対する尊敬がひしひしと感じられ、その丁寧な語り口に好感度が増す。
何かと親と比較されがちな世界で、父を尊敬し、父の歌をうたい、そして独自の音楽も創り上げている高田漣というアーチストに、初めて興味がわいた。
没後1年を記念して父の楽曲をカバーしたCD「コーヒーブルース〜高田渡を歌う」がいい。高田渡の歌を、高田漣の世界で歌っている。
この盤を聴いたフォークシンガーのお客さんの指摘がおもしろい。「高田渡の『仕事さがし』の歌いっぷりは必死に仕事を探してるけど、漣のは仕事なんか探してない」。
高田漣が聞いたらどう思うだろう。
父も仕事なんか探してないんですよと笑いそうな気がする。
<クレイジーケンバンド>
フィンランド映画「過去のない男」に、主人公が食堂車で寿司をつまみながら酒を飲むというシーンがある。フィンランドの列車で寿司に酒という設定がなんとも妙だが、そこで流れる音楽もおもしろい。
横山剣ひきいるクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」。
監督のアキ・カウリスマキが彼らの音楽を気に入り、映画に採用した。こぶしの効いたムード歌謡がカウリスマキの作り出すまじめで滑けいな雰囲気をいっそう珍妙にしている。
日本の寿司屋でわさびをあてに飲むというカウリスマキ。
クレイジーケンバンドのギタリスト、小野瀬雅生は彼の求めに応じて「MOTTO WASABI」という曲を書いた。
極北の国の寒いサーフソングをイメージしたというこの曲も、やはり同映画の見事な香辛料となっている。
<早坂紗知>
楽屋を開店して間もないころ、レコード屋でふと目にとまって購入したCD、早坂紗知の「ストレート・トゥ・ザ・コア」(1989年)は当たりだった。
ジャケットの写真とタイトルで期待した通り、迫力のある硬派なジャズが飛び出してきて、自分の選盤眼を自賛したものだった。
そんな出会いから十数年。早坂さんの楽屋ライブが決まった。いつも聴いているアーチストが、あちらからこちらに来てくれる。この興奮と緊張は、こちらからライブに出かけるときのそれとは明らかにちがう。
そして待つこと数ヶ月。
アルト&ソプラノサックスが早坂紗知、ベース永田利樹、バリトンサックスRioという編成の親子トリオ「TRex(トレス)」のライブがはじまった。
フリージャズとタンゴの融合。早坂さんの進化した音に、鳥肌が立った。
与世山澄子>
沖縄は那覇の繁華街のはずれに、インタリュードというジャズの店がある。平日はバーとして営業しており、品のよいスナックのママのようなご店主が泡盛などを供してくれる。
週末、この物腰やわらかなご店主がジャズボーカリスト与世山澄子に変貌する。ピアノの伴奏で歌われるその歌は、とても力強く、とても悲しい。
ビリー・ホリデイの歌も悲しいが、その悲しさに勝るとも劣らぬほど、与世山澄子の歌は悲しい。
多くの聴き手が彼女の歌を聴いて涙を流す。心が揺さぶられると言うと何だかくさくなるが、大げさではなく、結局はそういうことだと思う。
CDでも与世山澄子の世界が堪能できる。
2005年発表の「インタリュード」がいい。夜の始まりがこちらより遅い沖縄のように、夜がふけたころに聴きたい一枚。
<加川良>
わたしの好きなニッカウヰスキーの創始者の物語とあって、久しぶりに連続テレビ小説を観はじめた。
ウイスキー作りと国際恋愛の話かと思いきや、当時の狂った世情がうまく描かれた反戦ドラマで驚いた。
ニッカのウイスキー第一号が世に出たのが、第二次世界大戦最中の1940年。出征する息子の頭を刈りながら「逃げ回ってもいい、隠れてもいいから、生きて帰ってこい」という熊虎(風間杜夫)のセリフに、加川良の「教訓1」(1971年)が重なった。
「青くなって、尻込みなさい。逃げなさい。隠れなさい」。
戦時中はとても口にできなかったような斬新な詞が、バンジョーの伴奏でおだやかに歌われている。
何やらきなくさい世の中になってきた今、この逃げ隠れ至上主義の精神は、ますます大切になると思う。
<エルビン・ジョーンズ>
インターネットのオークションでレコードを仕入れることが多くなった。わたしは個人の出品をかなり信用している。
レコードを出品する人は得てしてレコードが好きなので、保存状態がよく、丁寧な梱包で美品が送られてくる。しかもたいていがレコード屋での相場より安い。
しかしながら、いくらパソコンの画面でほしい盤を見つけて小躍りしたところで、やはりレコード屋ですっと手に取ったときの感動には及ばない。
先日新潟で久しぶりにレコード屋をのぞくと、ずっと探していたエルビン・ジョーンズの「プッティン・イット・トゥゲザー」を発見。帯付きの美品が本当にこれでいいのですかという値段。
まじまじとながめ、オークションでは味わえない感動にひたることしばし。
興奮を悟られないように会計をすませ、そそくさと店を出た。
<ガトー・バルビエリ>
楽屋でのライブの際、演奏後の音楽に気を使う。
演奏が終わって拍手がやみ、そのまま無言の状態になるのが不粋だと思っているわたしは、演奏が終わるころ、つなげてもおかしくなさそうな盤を音量ゼロの状態で再生しておく。そして拍手がやむかやまないかのところで音量を徐々に上げる。こうして曲の途中からフェードインさせる方がしっくり来ると最近思うようになった。
先日のライブ後、アルゼンチンのサックス奏者、ガトー・バルビエリの「チャプター・ワン」をかけると、どうもしっくり来ない。ラテン的絶叫のような独特なサックスの音色は、ライブ後のつなぎにはふさわしくないのか。
しくじったとめげていると、この盤に興味を示す方が数名あり、救われた思い。
失敗と思えてもすぐに挽回してくれるのが、名盤の威力。
<ジグソー>
モカ編集部から〆切日の連絡をいただいた日、「スカイ・ハイ」がラジオから二回流れた。同じ曲を同じ日に二回聴くなどまれなことだ。
英国のバンド、ジクソーが1975年に出した「スカイ・ハイ」は、日本では多くの人がメキシコの覆面レスラー、ミル・マスカラスの入場曲として認識していると思う。
空中殺法を得意とするマスカラスの華麗なレスリングスタイルに、空高く飛ぶというような雄大なイメージのこの曲は見事に調和していたが、今になって初めて読んだ歌詞は、意外な内容だった。
君は僕の愛を空高く吹き飛ばしたという、切ない失恋の歌だった。
プロレスと失恋がどうにもかみ合わず、複雑な気持ちになった。
音楽というのは使われ方によってイメージが左右されるところがおもしろく、そしてこわい。
まとめ
思いが込められた音楽を聴く。音と音のあいだから伝わってくる歌い手やミュージシャンたちの人生。その深い世界にひたることのできる、素晴らしい時間を持てることは、実にうらやましい。