音楽にかまけて その10 〜〜お酒とコーヒーと音楽の店 楽屋 青山将之
休憩室×音楽屋×くつろぐ場所。そんな意味を込めて名付けられた楽屋さんは、音楽を聴きながら気軽に飲めるお店です。
レコード・CDの数は、村上で一番!オーナーが集めたジャズをメインに、ブルースやボサノバなどが揃います。また、軽食には注文を受けてから作るというポップコーンや、お酒の〆に大人気のお茶漬けパスタなど、こだわりのメニューがありますよ。
『明朗会計の気軽な音楽酒場』、楽屋で日常空間を少し離れ、音楽に浸ってみませんか?
PICK UP!
1. <憂歌団>
2. <はっぴいえんど>
3. <天田透>
4. <デューク・ジョーダン>
5. <エラ・フィッツジェラルド>
6. <ダニー・ハサウェイ>
7. <グラント・グリーン>
8. <エイモス・ミルバーン>
9. <ビリー・ホリデイ>
10. <打田十紀夫>
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<憂歌団>
ある夜、ひとりのお客さんが憂歌団をリクエストすると、となりのお客さんが手をたたいて喜んだ。そのことで初対面のふたりは盛り上がり、憂歌団を聴きながら酒をくみかわす。憂歌団が演出した、何ともほほえましい光景だった。
米国のブルースにバーボンがあうように、憂歌団のブルースにも酒がよくにあう。洋酒はもちろん、酒や焼酎などの和酒もいい。
天使のダミ声と言われた木村充揮のボーカルには、大阪ならではの味わいがある。
「ブルース」を「憂歌」という日本語で言い表したのは、ギターの内田勘太郎だった。
関西ブルース界の雄として、70年代から活躍してきた憂歌団。
結成から98年の活動休止まで、四人のメンバーが替わることは一度もなかった。
<はっぴいえんど>
ラジオ番組を作っている友人に、春にちなんだ曲の特集をしたいので何か薦めてほしいと言われ、はっぴいえんどの「春らんまん」を紹介した。
1971年に出された彼らの二作目『風街ろまん』に収められた曲で、お春という女を歌った詞がおもしろい。
はっぴいえんどは、徹底して日本語にこだわって曲を作り、日本語ロックの開祖的なバンドと言われている。
その詞を手がけたのが、のちに日本歌謡界の売れっ子作詞家として名を馳せるドラムスの松本隆だった。「ハイカラ白痴」「肺から吐く血」とふたつの意味がある痛快曲「はいからはくち」のように、日本語ならではの言葉遊びがしゃれていて、英語で歌うバンドが多かった当時では、さぞ斬新だったことだろう。
<天田透>
フルート奏者、天田透さんの前回の楽屋ライブは、「テンダの4の字固め」というタイトルだった。
何ともジャズのライブとは思えない、プロレスの試合のようなタイトルに、宣伝するのに少し困った記憶がある。
「4の字を持って行くから」という天田さんの解説も何だかよくわからなかったが、ライブ当日、天田さんが持ってきたコントラバスフルートを見て合点が行った。大人の背たけほどある大きな4の字をした楽器で、天田さんがその4の字を駆使する姿は強烈なインパクトがあった。
その天田さんが先ごろドイツの名門エンヤから初リーダー作を出し、その録音メンバーとともに、再び楽屋に来演する。
4の字、Jの字、一の字三種によるフルート・ジャズが楽しみ。
<デューク・ジョーダン>
雪が降っているので、雪にちなんだ曲や人などを考えてみたが、なかなか思いつかないので、レコードのジャケットで考えてみると、デューク・ジョーダンの「フライト・トゥ・デンマーク」がまず頭に浮かんだ。まるで冬のお城山で撮影されたかのような雪景の白黒ジャケットで、まさにこの時期の好適盤だと思う。
1973年コペンハーゲン録音のこの極北盤は演奏もすばらしく、デューク・ジョーダンのピアノにベース、ドラムスというトリオによる極々正統派のジャズ。ジョーダンの代表曲のひとつ、「危険な関係のブルース」が冷たく淋しげな雰囲気を見事にかもし出す。
雪の降りしきる中、あたたかい部屋で聴くこの真冬盤は、どこかきりっとして、おでん屋で飲む冷や酒のような役割をはたしてくれる。
<エラ・フィッツジェラルド>
浅川マキが急逝して早二年。相もかわらず彼女の歌を聴く夜が続く。
楽屋で流れるボーカル盤は、浅川マキのほか、ビリー・ホリデイ、ニーナ・シモンなど、どちらかといえば暗い歌い手のものが多いが、その対極のようなエラ・フィッツジェラルドの歌も、わたしは好んでよくかける。
陰のビリー・ホリデイに対して、陽のエラ・フィッツジェラルド。
ジャズこそ最高のエンターテイメントだと言わんばかりに、明るく楽しく、ときにはしっとりと歌い上げるエラの音楽は、やはりライブ盤がいい。数ある名盤の中でも「エラ・イン・ベルリン」(1960)は、スキャットあり、バラードありと、エラの魅力満載の痛快盤。
ジャケットのエラの笑顔を見ているだけで気分が晴れてくる。
<ダニー・ハサウェイ>
「あらゆるジャンルのライブ盤の中でも屈指のアルバム、とだけ記して、書き手の役目を放棄したいほどの名盤」というレコード評を読んだとき、実にうまい表現だと思った。決して大げさではない、当盤の愛聴者なら誰もが認める絶妙の評だと思う。
その当盤とは、夭逝ソウル歌手ダニー・ハサウェイ1971年の実況録音盤で、タイトルもそのままずばり「ライブ」。
この盤のすごさは、演奏のよさもさることながら、何と言っても聴衆のすさまじい熱気が伝わってくる臨場感にある。聴衆の存在感がここまで大きなライブ盤もめずらしい。
この場に居合わせた人たちはどんなに幸せ者かと、聴くたびに思う。そして、こんなすばらしい観客の前で演奏できたダニー・ハサウェイも、この上なく幸せだったにちがいない。
<グラント・グリーン>
旅先のジャズ喫茶でグラント・グリーンの「フィーリン・ザ・スピリット」をリクエストすると、マスターはこの盤が角野卓造の愛聴盤だということを教えてくれた。
迷ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」での中華料理屋の頼りない店主というイメージしかなかったので、彼が熱心なジャズファンだと知って何だかうれしくなった。
ファンキーなギタリストとして名を馳せたグラント・グリーンは、若者の集まるクラブでも人気が高いジャズ奏者のひとりだが、レコードの針がとんでいると思わせるほどしつこく同じフレーズをくりかえす、そのねちっこくて黒々としたジャズは、役者角野卓造の真骨頂である酔っぱらいの演技のような、ベテランならではのいぶし銀の味わいがある。
<エイモス・ミルバーン>
多くの酒飲みに支持されているテレビ番組「吉田類の酒場放浪記」は、BGMで使われる音楽の選び方も独特で興味深い。
吉田類氏が酒場をもとめて街をさまようバックで、ジャズやロックなど、回ごとにセンスのいい様々な曲が流れるが、最後は毎回きまってエイモス・ミルバーンの曲でお開きとなる。
1940年代から50年代にかけて活躍した米国の歌い手で、酒にまつわる曲を多く残しており、この酔狂な番組をしめくくるのにまさにうってつけである。
最近楽屋でも彼の音楽をよくかけるが、酒を愛する人ほどすばやく曲に反応する傾向にある。
そのしっとりと味わい深いリズム&ブルースは、番組のテーマとイメージだけではなく、飲みながらじっくり聴くのにも、とてもいい。
<ビリー・ホリデイ>
秋はわたしの一番好きな季節で、夏の終わり頃から楽しみで仕方ない。暑いのが苦手なせいもあるが、冬に向かう淋しさに毎年わくわくする。
淋しさをすばらしくかもし出す歌い手に、ビリー・ホリデイがいる。それほど美しい声でもなく、迫力がある歌唱でもなく、初めて聴いた時はただただ暗いという印象だった。しかしその哀愁にみちた独特な歌声を、いつ頃からか夜がふけると聴きたくなった。
楽屋ではお客さんの少ない静かな夜にかけることが多い。
「ビリー・ホリデイのうたからは都会の物憂いさと黒人の女の体温が伝わって来る」と言ったのは、彼女の歌をこよなく愛した浅川マキだが、秋の夜長などはその物憂い雰囲気が楽屋を包み、さらに静かに、淋しくなる。
<打田十紀夫>
ライブコンサートでの楽しみが、間近で聴く生演奏であることは言うまでもないが、曲の合間に演奏者から語られる話というのもなかなか興味深い。
いい演奏をする人たちは、えてして話もうまい。くどくなくわかりやすく、どこか粋な感じがする。
数多くのギター教則本の著者として知られる打田十紀夫さんのライブは、流れるようなブルースギターの独奏もさることながら、その軽妙な話術も大きな魅力のひとつ。
ジャイアント馬場を敬愛するプロレスマニアでもあり、プロレスとブルースをからめたユーモアたっぷりの語りが実に楽しい。語りが楽しいと演奏も引き立つ。
演奏と語りで観客を楽しませる、まさにエンターテイナーの打田さんが奏でる「エンターテイナー」を聴くと、気持ちがとても平和になる。
青山さんが話してくれる、ジャズのことがもっと知りたい人にとっては嬉しいこぼれ話やジャズの奥深さが伝わってくる話。しみじみ思いませんか?音楽って、いいなぁ、と。