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音楽にかまけて 〜お酒とコーヒーと音楽の店 楽屋 青山将之



休憩室×音楽屋×くつろぐ場所。そんな意味を込めて名付けられた楽屋さんは、音楽を聴きながら気軽に飲めるお店です。
レコード・CDの数は、村上で一番!オーナーが集めたジャズをメインに、ブルースやボサノバなどが揃います。また、軽食には注文を受けてから作るというポップコーンや、お酒の〆に大人気のお茶漬けパスタなど、こだわりのメニューがありますよ。
『明朗会計の気軽な音楽酒場』、楽屋で日常空間を少し離れ、音楽に浸ってみませんか?

 

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<ジョン・コルトレーン>


渋谷のジャズ喫茶「きゅりお」が閉店するというので、十数年ぶりに行ってきた。マスターは相変わらずやさしく、焼そばもうまかった。 1980年開店というから、35年の歴史に幕を閉じることになる。
わたしにとってのきゅりお最後の晩、マスターは夜ふけにジョン・コルトレーンの「インターステラー・スペース」(1967年)を大音量でかけた。聴いたことのない盤だった。亡くなる四ヶ月前のコルトレーン渾身の吹奏がすさまじい。コルトレーンのテナーサックスにラシッド・アリのドラムという、いたって質素な構成による大迫力ジャズ。人としゃべりに行っていたせいか、実はきゅりおでジャズをじっくり聴いた記憶があまりない。思えば、激しいジャズはほとんどかけず、音量もほどほどで、会話をするのに最適な空間だった。初めてきゅりおでコルトレーンの強烈な演奏を聴いて、マスターの嗜好がようやくわかった気がして、少しうれしくなった。

 

<ライトニン・ホプキンス>


心あるお客さんが持ってきてくれた一枚、ライトニン・ホプキンスの「ラスト・ナイト・ブルース」をかけると、南正人ばりのねちっこいブルースギターが聴こえてきた。お、と思ったが、歌が始まると何かがおかしい。すると持ち主の方に「45回転!」と言われ、一同大笑いとなる。
LPサイズである12インチで二枚組のレコードが、 まさか45回転だとは思わなかった。 33回転なら12インチ一枚に収まるところを、あえて45回転にして二枚組にする。ここまで45回転にこだわった盤にはお目にかかったことがない。LPで通常採用される33回転より、7インチのEP盤などの45回転の方が音質がいいと言われている。ずっしり重たいブルースがわたしの気に入り、すぐさま要入手盤リストに加わったものの、 45回転ならではの音質のよさは、やはりわからずじまい

 

<デクスター・ゴードン>


とある夕暮れ時、絵心のあるお客さんからデクスター・ゴードンのリクエストあり。ほとんどリクエストされることのない奏者なので意外だったが、映画「ラウンド・ミッドナイト」を観たとのことで合点が行った。この映画で主役を演じたのが、サックス奏者のデクスター・ゴードンだった。
ジャズ界の重鎮が果たしてどんな俳優になるのか。初めは大して期待もせずに観てみると、これが何とも味わい深い演技で驚いた。 演技というより、ほぼ素のままだったと思う。その堕落して行く切ない様は、演技とは思えないくらいリアルで、まさに彼の吹くテナーの音色のようにぼくとつとしていた。
そんないきさつのリクエストにお応えして、映画の舞台でもあるパリで録音された「アワー・マン・イン・パリ」 をかけた。迫力と哀愁の同居する傑作。

 

<坂 田 明>


かける音楽に反応をいただくとうれしい。楽屋でどのような音楽に反応が多いか考えてみると、1.曲が有名、2.その方の好みに合致、3.演奏が変、というようなことが挙げられる。
サックス奏者、坂田明が2006年に吹き込んだ「ひまわり」は、1の理由から反応が多い盤のひとつ。イタリア映画「ひまわり」の主題歌に始まり、「見上げてごらん夜の星を」「遠くへ行きたい」「早春 賦」などといった往年の名曲が、坂田明特有のみずみずしく枯れた音色で奏でられる。フリージャズの第一人者として山下洋輔トリオで名を馳せ、縦横無尽の吹奏をくりひろげてきた坂田 明が、この「ひまわり」ではしっとりとむせび泣く。
知っている曲からの反応が、このサックスいいねに変わることしばしば。サックスの音色が好きな方に聴いていただきたい一枚。

 

<梅津 和時>


朝のラジオ番組に、サックス奏者の梅津和時がゲストで出演した。その強烈な演奏からは想像できないような爽やかな声が意外だった。最新作からと思われる曲が流されると、とたんに朝のNHKらしからぬ雰囲気となる。たまにこうなるのがNHKのおもしろいところ。聴取者からすぐさま「キング・クリムゾンみたい」というコメントが寄せられ、同感。「太陽と戦慄」を思わせる激しい曲で、仕入れてじっくり聴きたくなる。ずいぶん前に観たライブでは、小柄な身体でステージをのたうち回りながら演奏する姿に驚かされたものだった。
国内外のさまざまなミュージシャンと共演しながら音楽活動を展開している梅津和時には、ジャズやロックなどという言葉では到底くくれない独自の世界がある。未体験の方には、KIKI BANDがお薦め。

 

<ハンニバル・マービン・ピーターソン>


国道側のお城山のふもとにあるUNDERでは、週末さまざまな音楽イベントが催され、良質な大音量で音楽が気軽に楽しめる。わたしも何度かDJとして参加させてもらったが、なじみのレコードを楽屋では絶対に出せない音量で聴くのは感動的だ。スピーカーが新しくなり、管楽器の音がいっそう良くなったと聞いて、先日初めてジャズをかけてみた。激しいトランペットをUNDERの音で聴いてみたかった。
米国のトランペット奏者、ハンニバル・マービン・ピーターソンのライブ盤「イン・ベルリン」から、「讃美歌第23番」。かん高いトランペットのソロからはじまり、ベースが加わったところで歓声があがる。この場内の反応がDJの醍醐味だと、素人ながらに思う。
ここでしか味わえない高カロリーな大迫力ジャズを、ひとりDJブースの中で楽しんだ。

 

<コールマン・ホーキンス マヘリア・ジャクソン>


マヘリア・ジャクソンの回でも書いたように、「ジェリコの戦い」という曲が好きなわたしは、 札幌を初めて訪ねた際、「ジェリコ」というジャズバーに入った。やさしくて男前のマスターがいて、居心地がよく、ライムの入ったジンを何杯も飲み、酩酊した。まだグラント・グリーンのギターでしか「ジェリコの戦い」を知らなかったわたしに、マスターはコールマン・ホーキンスの「ジェリコの戦い」(1962年)を聴かせ くれた。初めて聴くホーキンスの迫力あるテナーサックスに、わたしはすぐさま引き込まれた。
このライブ盤はメイジャー・ホリーの野太いベースがまた素晴らしく、弓弾きしながらスキャットでユニゾンする、いわゆるハミングベースが 聴ける貴重な演奏でもある。くさくさしたときに聴くと、何だか元気がわいてくる

 

<ルイス・ボンファ>


開店以来アーチスト名のアイウエオ順に並べていたCDをABC順にしてみた。すべてのCDを取り出してみて、長いこと出番を与えなかったCDが多くあることに改めて気づく。
例えば、ルイス・ボンファ。ボサノバを聴き始めてまもなく、ジョアン・ジルベルトとルイス・ボンファがわたしの理想的なボサノバ奏者となった。それが、今でもよく聴くジョアンに対して、ボンファは今回CDを手にして懐かしさを覚えるほど、ずっと聴いていなかった。
サ行のジョアンは手に取りやすいが、ボンファはラ行という取り出しにくい位置にあったから、というのはただの言い訳。ないがしろにしてしまったラ行のアーチストに申し訳がない。ボンファは今回L列に並べ替えて、手ごろな位置に来た。
「ボサノバ」と「ブラジリアーナ」を久しぶりに繰り返し聴いている。

 

<ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ>


メキシコ出身の二人組、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラのライブを観た。日本語で言うところの、ロドリーゴとガブリエーラ。ロドリーゴが高速メロディを弾き、ガブリエーラが打楽器のようにギターを叩き弾く。その重厚多音で熱情的な音楽は、たった二本のクラシックギターから繰り出されているとはとても思えない。
代表曲「タマクン」がいい。ラテンの陽気さと哀愁が混じり合ったような、彼らならではの独特の雰囲気を持つ不思議な曲。この曲で観客は総立ちとなり、場内の熱狂は最高潮に達した。
初来日公演を収めたライブ盤「激情セッション/ LIVE in JAPAN」(2008年)で彼らの熱い演奏を聴くことができる。ジャズのスタンダード曲「テイク・ファイブ」やレッド・ツェッペリンの「天国への階段」などのカバーも素晴らしい。

 

<トミ ー・フラナガン>


NHK FMのジャズ番組で、ひとつの曲をいろいろなバージョンで聴き比べるというなかなか酔狂な特集がある。
先日の対象曲が「マック・ザ・ナイフ」だったというので、楽屋でも数曲聴き比べてみた。おもしろいのが、ソニー・ロリンズとコールマン・ホーキンスがそれぞれリーダーの2曲は、どちらもピアノがトミー・フラナガンということ。リーダーのテナーサックスのちがいは歴然だが、恥ずかしながらフラナガンのピアノは記憶がない。初めてピアノソロを意識して聴き比べると、どちらも脇役に徹している感じの地味な印象。この地味さが多くの名盤のサイドマンとして活躍したフラナガンの魅力でもあるのかもしれないが、彼の真骨頂はスピード感と緊張感のある音色だと思う。
最高傑作として名高いリーダー作「オーバーシーズ」を聴いて、やっぱりこっちだろう、となった。

 

INFO

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まとめ

ジャズ好きにはたまらない、楽屋 青山さんのコラム。語ってもらって初めて分かるジャズの奥深さ。音楽に生きた人たちの物語に思いを馳せてみてください。

 

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