音楽にかまけて その11 〜〜お酒とコーヒーと音楽の店 楽屋 青山将之
休憩室×音楽屋×くつろぐ場所。そんな意味を込めて名付けられた楽屋さんは、音楽を聴きながら気軽に飲めるお店です。レコード・CDの数は、村上で一番!オーナーが集めたジャズをメインに、ブルースやボサノバなどが揃います。また、軽食には注文を受けてから作るというポップコーンや、お酒の〆に大人気のお茶漬けパスタなど、こだわりのメニューがありますよ。『明朗会計の気軽な音楽酒場』、楽屋で日常空間を少し離れ、音楽に浸ってみませんか?
PICK UP!
1. <シバ>
2. <デューク・エリントン>
3. <ジャンゴ・ラインハルト>
4. <高田渡>
5. <チャールズ・ミンガス>
6. <パティ・スミス>
7. <マイルス・デイビス>
8. <ナラ・レオン>
9. <スコット・ラファロ>
10. <チャーリー・パーカー>
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<シバ>
「ジャケ買い」をすることがある。
内容はわからずにジャケットのみを気に入ってレコードを買うことだが、これはどうしてもアタリとハズレがあり、一種のギャンブルのようなものだ。あたる確率は、今のところ五割くらいだろうか。当然、アタリだととてもうれしい。
70年代より活躍しているブルース歌手、シバのデビュー作「青い空の日」はアタリだった。
漫画家でもあるシバの自ら描いたイラストがジャケットで、さえない男の横顔が何とももの憂く、妙にインパクトがある。実際聴いてみると、ジャケットの雰囲気そのままの、初期のボブ・ディランを彷彿とさせる質素な弾き語りだった。
ジャケット、演奏ともに、夜ふけの静かな楽屋によく似合う。とわたしは思う。
<デューク・エリントン>
年二回開催のうち、七月の新潟ジャズストリートは、「デューク・エリントン・メモリアル」という副題がついている。これは、1964年の新潟地震の折、デューク・エリントンが急きょ慈善公演を開催して、新潟市の復興に一役買ったことに由来する。
新潟の人たちの、彼に対する感謝の気持ちは今でも薄れていない。
ビックバンドのリーダーとして活躍したエリントンだが、少人数編成での彼のピアノもいい。トリオ作「マネー・ジャングル」での、けん盤をたたきつけるような演奏は、怒りが感じられるほどの迫力がある。
そのエリントンを記念する新潟ジャズストリートが、2011年7月16,17日、新潟市内31ヶ所で開催される。1,000円でハシゴし放題は格安だ。
<ジャンゴ・ラインハルト>
2011年1月の新潟ジャズストリートで聴いたジプシージャズの演奏が気に入って、このところ楽屋でもそのあたりの音楽をよくかける。
ギターやバイオリンなどで軽快に演奏されるジプシージャズは、1930年代、ギタリストのジャンゴ・ラインハルトによって、自らのルーツであるロマ(いわゆるジプシー)の民族音楽とスイングジャズとをかけあわせて作られたと言われている。
その昔、移動の旅が日常生活だったロマの人たちは、欧州諸国で迫害と偏見にさらされ続けてきた。戦中ドイツ支配下のフランスで、ナチスの迫害政策を恐れずに演奏を続けたというジャンゴだが、その旋律はどこか哀愁をおびていて、ロマの悲しい歴史を表現しているようにも聞こえてくる。
<高田渡>
全国の庶民的な酒場を訪ね歩くテレビ番組「吉田類の酒場放浪記」で、東京吉祥寺の串焼屋いせやが紹介されたとき、高田渡の姿が偶然映っていて驚いた。
相当な酒飲みだったというフォーク歌手の高田渡は、毎日のように自転車でいせやに通っていたらしい。
酒を愛しすぎたせいか、56歳という若さでこの世を去ってしまった。
1971年発表の『ごあいさつ』は、はっぴいえんどのメンバーとともに作られた彼のメジャーデビュー盤で、ほのぼのとした中にもメッセージ性もしっかりある傑作。
ようやくあたたかくなってきたこの時期、当盤収録の「自転車にのって」を聴いていると、おにぎりでも持って自転車で出かけたくなる。
<チャールズ・ミンガス>
先月下旬、福島へ出かけた。
十数年ぶりに訪ねたジャズ喫茶ミンガスは、やはり居心地のいい店だった。
店名の由来となったチャールズ・ミンガスは、「泣く子も黙る」ということばが似合うジャズ界の巨匠で、彼の奏でるベースは、まるでしいたげられた黒人の怒りをそのまま音にしたかのように、重く、野太い。
ミンガスのすばらしい音響でミンガスのベースを聴きたいとも思ったが、なぜか気恥ずかしくてリクエストできなかった。聞けば、ミンガスは今年で32年になるという。
わたしもがんばらねばと奮起して村上に戻ったのだったが、それからまもなく、ミンガスは大震災に見舞われてしまう。
ミンガスの力強い演奏を聴いて、ミンガスの再興を祈る。
<パティ・スミス>
それまで聴いたことのなかった音楽やアーチストと出会って、その音楽にのめりこんでいくときのうれしさ、楽しさといったらない。
わたしの場合、聴いたとたん「これは!」と好きになることはあまりなく、初めは「ふうん」という感じで聴いていたものが、じわりじわりと好きになり、いつの間にかほれこんでしまっている、というパターンが多い。かえって、初めから「いい!」と思ったものはあきるのも早い気がする。
そんな出会いが音楽を聴く大きな楽しみのひとつだと思うが、パティ・スミスとの出会いは近年まれに見る大きな事件だった。
ロック歌手、詩人、画家という多彩なアーチストで、名前は知っていたが音楽を聴いたことはなく、最近になって機会があって聴いてみたら、ひと月ほどで見事にのめりこみ、とりつかれたように日ごと彼女の歌を聴くこととなった。
音楽と同時に、彼女の人間性にも強烈に引き込まれた。
インターネットの投稿動画サイトで何気なく観た、2002年フジロック・フェスティバルでの彼女の姿がとくに衝撃的だった。
英語しか話せないことをわびてから日本の聴衆に語りかけ、おだやかに反戦を訴え、日本に対する米国の原爆投下について、戦後生まれの米国人として真摯に謝罪するパティ・スミス。
英語が世界を席巻し、おいらが一番とばかりに祖国が世界のガキ大将然としている中、彼女のような米国人もいると知って救われた思いだった。
今年で65歳になるパティ・スミスは、今年も楽旅で世界をまわり続ける。
再来日の際は、楽屋臨時休業の可能性あり。
<マイルス・デイビス>
フランスのサスペンス映画「死刑台のエレベーター」が日本でリメイクされ、今秋(2011年)公開される。
1958年に作られた本家版は、ヌーベルバーグの傑作と言われているらしいが、わたしにはそのよさが今ひとつわからなかった。しかしながら、マイルス・デイビスによる音楽はすばらしく、夜中に楽屋でも流れる定番の一枚となっている。
映像を見ながら即興で吹いたといわれるマイルスのトランペットは、サスペンスにふさわしく冷ややかで緊張感にあふれていて、サントラということばはあまり似合わない最高級ジャズ。
このような映画をリメイクするのは、とくに音楽担当者はさぞ大変だと思うが、はたしてどのような作品になるのか、今から楽しみ。
<ナラ・レオン>
秋から冬にかけて寒さが増すころ、ボサノバが聴きたくなる。
夏のボサノバもすずやかでいいが、晩秋に聴くボサノバは、このころ特有のもの悲しさに拍車をかけてくれるような気がして、秋好きのわたしにとっては気分を落ち着かせてくれるありがたい存在だ。
ナラ・レオンの「美しきボサノバのミューズ」はその筆頭格で、歴史的名盤とも言われる一枚。
まずジャケットがいい。
黒い外套を身にまとい、雪の降る空を見上げるナラ。浅川マキに匹敵するほどモノクロームがにあう。
トゥーカの奏でるギターとナラの歌という簡素な音作りで、一曲目「インセンサテス」の出だしからもはや切なく哀愁にみちあふれている。
寒い夜に聴いていると、砂糖を少し入れたラム酒のお湯割りが飲みたくなる。
<スコット・ラファロ>
音楽のリクエストのしかたも人それぞれだが、「しぶいの」とか「マスターのお勧めを」と言われるとなかなか困る。
ある程度的をしぼってもらえると応えやすいが、「ベースがかっこいいアルバムを」という先日のリクエストは、意外とわたしにはうれしかった。
ありますあります、かっこいいベース。まずはスコット・ラファロなどいかがでしょうか。彼の野太いランニング・ベースを聴いてみて下さい。アルバムはトランペットのブッカー・リトルのリーダー作なんですがね。次はこちらのラファロもぜひ。こちらもリーダーはビブラフォンのビクター・フェルドマンなんですがね。スコット・ラファロ。かっこいいと思いません?ジャズの要はやっぱりベースですよね・・・
・・・などと心の中でしゃべくりながら、淡々と盤を回した。
<チャーリー・パーカー>
2010年8月15日で楽屋が十歳になった。
ふり返ってみれば、何もかもつい先日のことのような気がして、あっという間の十年だった。
楽屋にオーディオを設置して、最初にターンテーブルにのせたのがチャーリー・パーカーの「ナウズ・ザ・タイム」だったが、これはわたしが初めて聴いたジャズのレコードでもあり、わたしのジャズ遍歴の中で重要な一枚である。
うれしいとき、悲しいとき、とくに何も考えていないとき、ことあるごとにこの盤を聴いてきた。今でもこれを聴くと初心にかえれる気がする。わたしにとっての軌道修正盤とでも言えるだろうか。
十周年を迎えて聴くパーカーのアルトサックスは、ほっとしてるなよとわたしをいましめているかのような音色だった。
春に聴きたい曲、夏になると聴きたくなる曲、秋の夜長にいつも思い出す曲、冬だからこそ聴きたくなる曲。思い出に残る曲が、ふと、聴きたくなることはありませんか?